岡空小児科医院
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嘔吐下痢症(急性胃腸炎)の食事療法
 最近、嘔吐下痢症(感染性胃腸炎)で受診しました。 下痢の時の食事内容について、少しずつ考え方が変わってきたと聞きました。 子どもの親としてはどうしたらいいのか困ってしまいます。 先生の考えを教えて下さい。


 医療は日々進歩します。 医学は算数(数学)とは異なります。 ピタゴラスの定理などの、全てにあてはまる絶対的な定理はありません。 目の前にある患者さんの状況によって、正解は変わってきます。 そうは言っても、おおよその考え方は存在します。 そういう中で感染性胃腸炎(急性胃腸炎)の食事療法に関して、考え方が少しずつ変わってきました。 現行の方法と新しい考え方を併記してみます。 どちらが正しいのか? 結論は未だ出ていません。
1.現行の方法
 感冒(いわゆる風邪)に伴う急性胃腸炎は、嘔吐や下痢の症状が認められます。 治療の基本は食事療法です。 薬だけに頼っていても、嘔吐や下痢は良くなりません。 また、少し良くなったからといって、炭酸飲料やポテトチップスなどを摂っているようでは完全には治りません。
<<短期間の絶食>>
 特に嘔吐がある場合は少し休んでから、水分を少しずつ与えてください。 嘔気がなくなれば、下痢があっても食事は早期再開した方がいいとされています。 下痢中に食物を与えると、当然便の量は増えますが、結果として回復が早く、体重が維持されるという臨床報告がでてきているからです。 もちろん、何でも食べればいいというわけではなく、当然食事内容を工夫する必要があるわけです。 牛乳は禁止、甘すぎるもの、脂濃すぎるものはさけるのが原則です。
<<水分と塩分、適度な糖分の補給>>
 水分の補給が大事=水を与えればいいというわけではありません。 母乳は続けてください。 人工ミルクを薄めすぎる必要はなく、経口補液を併用してください。 離乳食が進んだ乳児でもすぐ薄めたミルクに戻してしまいますが、でんぷん質を主体とした離乳食でも構いません。 すぐ家庭でできる経口補液の代表は、市販の乳児用飲料です。 大人がよく飲むスポーツ飲料はナトリウム濃度やカリウム濃度が低いばかりではなく、糖濃度が高く、血液が酸性化するアシドーシスになりやすい果糖が多いため、適していません。 乳児用飲料が一番いいわけではなく、家庭でも工夫すれば、これに優る食事療法ができます。 その具体的なものを下に示しますので、参考にしてください。
<<簡単な食事の作り方>>
(1)野菜スープ:じゃがいも、にんじん、トマトなどを煮くずれしない程度に煮て、ごく薄い塩味をつけ、汁の部分だけを用いる。
(2)人参スープ:人参500gに食塩3gを加えて2時間煮て裏ごしし、水を加えて1Lにする。
(3)おもゆ(5分粥):米50g+水500ml米粒がとろけるまで
(4)全粥:米100g+水500mlねっとりするまで炊く。 又は、炊きあがりご飯1と水1を同様に炊く。
(5)くずゆ:片栗粉4g+砂糖6g+水100mlゆっくりかきまぜながら加熱する。
(6)煮込みうどん:ふつうよりもやわらかく煮る。
(7)つぶしじゃがいも:煮くずれするまで煮てスプーンでつぶす。
<<その他の注意点>>
 嘔気や嘔吐を和らげるために制吐剤(飲み薬や坐薬)を使うこともありますが、使って40分位してから水分を与えるようにしてください。 また、嘔吐がひどくて水分がとれない時、便に血が混じっている時、元気がなくてぐったりしている時等は病院を受診してください。 特に1歳以下の赤ちゃんでは注意が必要です。  市販の乳児用飲料は治療薬ではありません。 また、健康小児に水の代わりとして用いないようにしてください。

2.下痢があるときの食事(新しい考え方)
 病原体の感染が原因で下痢を起こしているときには、栄養分を消化・吸収し、水分を吸収する能力が落ちていることが多いといわれていました。 そのような消化・吸収能力の低下があるため、下痢があるときには、体の負担を軽減するために、(1)消化のよいもの(BRAT食-バナナ、ライス、リンゴ、トーストなど)を取るようにする、油分の多いものや乳製品は避ける、(2)母乳はそのまま与えてもよいが量は減らす、ミルクは1/2〜2/3に希釈する、などを行うことが推奨されていました。
 しかし、近年日本などの先進国では急性下痢症が軽症化しています。 これには、乳幼児の栄養状態が向上した、早めに医療機関に受診するようになった、母親の脱水症に対する知識が向上した、などの理由が考えられます。 これらの軽症化のために以前いわれていたような食事の制限は必要ない、という意見が出てきました。
 現在下痢があるときの食事や水分の取り方の好ましい方法としては、以下のようなものがあげられます。
(1)積極的に経口補液療法を行う(組成が以前のものよりうすくなってきている)。
(2)脱水補正後はすぐにいつも通りの食事を与える(早期に食事を再開する)。
(3)母乳の量の制限やミルクの希釈は必要ない。
(4)不必要な薬物は使用しない。
 今までの治療法に慣れてきた身には多少違和感を感じますが、最近の欧米での治療の流れはこのようなもののようです。 日本でもこのような治療法が広まっていくのでしょう。
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