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わが子が植物嫌いだと知ったのはいつのことだったろうか。 まだベビールームに預けていた1歳ちょうどくらいころ、先生から「ナミちゃん(娘の名前)、おもしろいんですよ。ぜったいに芝生のほうへは来ないの」と不思議そうに言われたことがあった。ベビールームの庭を見てみると、緑色の通路があって、その向こうに本物の芝生が生えているのだが、うちの子は緑色の通路までは行っても絶対に芝生へは入らないというのである。そのときは、「?」と思いはしたが、あまり深く考えずにいた。
それから、しばらくして、娘もすっかり歩き回るようになり、休日はよく近所の公園などへ散歩に出かけるようになった。そのさい、葉っぱが風に揺らいでいるのを見て、「ほら、葉っぱがあいさつしてるねえ」などと話しかけるのだが、「ううん!」という感じで後ずさりしてしまう。 「やっぱり慎重派タイプ?」と思う私であった。というのも、もともと娘はこの歳にして「石橋をたたいて渡る」ようなところがあり、同齢の子どもが遊具で遊んでいるのを見ると、興味津々なのだが入ってはいかずしばらく見ていて、安全なようだと確認してから(子どもたちがほとんどいなくなってから)自分も挑戦してみるといったタイプであった。だから、生き物に対してもそれは同じで、最初は猫や犬を見るとすぐ私の後ろに隠れ、ずっと観察していた。「自分に危害を加えない」「これはどうやら人間に近しい動物である」ということを理解するとようやく安心して、「ねこー」「いぬー」などと指差して喜ぶようになった。
そんなことを通して、あるときふっと感じたのは、娘の植物嫌いは「わけのわからないものへの恐れ」ではないか、ということであった。植物は生き物である。葉が茂り、花が咲く。実がなり、やがて枯れていく。「もの」にはない変化がある。娘もどうやら、「植物=生き物」という認識は持っているようだ。しかし、同じ生き物でも、自分と同じ子どもではない、お母さんでもない、大人でもない、猫や犬でもない。顔もないし、手も足もない。でも「生きている」。これはいったいなんなんだろう!?と、パニくっていたのではないだろうか。
確信できたのは、植物園に行ったときである。区内に、清掃工場の余熱を施設運転に必要なエネルギーとしている熱帯植物園があって、沖縄フリークの私は、うっそうと茂るガジュマルやらアカバナーやら、ソテツやらアダンやらが、近くでしかも安価(大人200円)で見られるので気に入っていたのだが、ここに連れてきたときの娘の反応はひどかった。「こわい、こわい」を連発して、大木の下を急ぎ足で通ってしまうし、「はやくいこう」と腕を引っ張り、私は全然堪能できなかった。そこで、ははーん、と納得したのだった。いくら鈍感な人でも、あの熱帯の植物群に出会えば、すさまじい生のエネルギーを感じることができるだろう。否が応でも、植物は生き物だ!と実感できるはずだ。娘は、公園の葉っぱどころではない強烈な植物の息吹に当てられて、すっかり参ってしまったのだ。
こうした、幼児期の感覚というか、生への感じ方というか、以前は私も持っていたのだろうかと考えると、面白く、また新鮮な驚きであった。神の島と呼ばれている沖縄の久高島には、「木、石を持ち帰らないでください。たたりがあります」とかかれた看板が立っている。「たたりだなんて、ばかばかしい」と思うかもしれないが、万物どこにでも神様は宿っている、かってに木を切ったり石を持ち帰ってはいけない。自然物に対して畏敬の念を持て、ということなのだろう。幼児はこうした大事なことをじつは大人以上に「わかって」いて、それが大きくなるにつれて無くなっていくのだ、とつくづく考えさせられた。
余談だが、子ども好きで、根っからのオモロイ大阪人といった感じで、ちょっと周りにいないタイプの友人が、娘に会いに家に遊びに来てくれたことがあった。そのときの子どもの反応がこれまた面白く、植物に対しての反応と似ていた。いきなり人の家で靴下を脱いだり、踊ってふざけたりという彼女を見て、娘は動揺していた。「ママの友だちだから大人だと思うけど、こんな大人は今まで見たことないし…かといって子どもでもない。女だと思うが男なのか? いったいこの生き物はなんなんだろう?」といった感じである。後日、子ども好きなのにすっかりおびえられてしまった友人は落胆して、「…やっぱり、おサルのかぶりもの、かぶってくればよかったかなあ」と反省していたが、すぐに別の友人に「そんなことしたら、子どもだけじゃなくて大人も引くよ」と否定されていた。
いずれにしても、子ども、とくに幼児というのは面白い。見ていて飽きない存在だし、じつは人間として持っていなければならない大事な感覚を持っているものなのだ。(つづく) |
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